27.2014
煙となす





























<model:pyon sena @senatm2>
駅の改札で電車を待つが、ずいぶんと待たされたような気がする。
駅舎のコンビニエンスストアーのアイスケースを覗きこもうとして手前のゴミ箱の中を覗きこむ形になった。
つまり仰ぎ見ることの逆だ。愛用の水色の柄のはさみがある事に気づいて僕は手を伸ばした。
錆びて刃こぼれをしたはさみが自分のものではないと気づいて、それを駅舎の四角いゴミ箱に捨てた。
ゴミ箱には鈍色に反射する金属製の工具がたくさんあった。目の細かい凹凸に反射するレンチの白銀が目に留まった
電車に乗ってはいけないと示されたかのように目の前でドアが閉まった。
一度は電車そのものが消えたように感じられて、僕は一本向こう側の電車に乗ったと記憶しているが、ホームを行き来しなかったのを考えるとそれは記憶違いなのだろう。
列車のドアは相変わらず閉じたままだが他のドアに目を向けると車椅子の老婆が乗ろうとしている。
其処だけドアが開いていた。
撮影に出かけた帰りなのか、もう陽も暮れている。
車窓の向こう側にまるで水仙の様な八重咲きのしだれ桜が咲いている。初めて見るような桜だ。
宵闇色に侵食された薄紅のしだれ桜は、あるいは藤だったかもしれない。
女の髪のように上から下へ、ただただ下る花。
ずいぶんと見慣れない景色だ。
車内の案内板を見ると雑司が谷方面行きだった。僕の家はそっちじゃない。
この上更にどこに出かけようというのか、僕は死出の電車に乗ってしまったのだろうかと思った。
けれど、死出の片道切符でない電車など存在するのだろうかとも思った。
僕は徐ろに彼女のツイッターのプロフィールを見るのだ。
父が癌で亡くなりました。ディズニーへ行くので5月26日から6月5日まで連絡しないで下さい…。
趣味が合わなそうに感じてとても気持ちの落ち込んだ僕は、それでも次にまたいつ彼女をデートに誘うべきか、
その事を考えた。僕はもう待ちたくない。待つべきなのか投機して連絡すべきなのか、悩んだ。
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